10月の特集『壁のイコン』

魅力ある防火壁の壁画は、廃止店舗に限って見つかるわけではない。営業中の店舗においても、すばらしい作品を発見することができる。
 たとえば、かつては防火壁の両面に意匠が描かれていたものが、その後隣接地に建造物が建ったために外側の壁画が覆い隠されてしまう場合がある。その後、給油所の内側の壁は何度も再塗装され、あるいは石油ブランドの合併統合によって、以前とは異なる意匠が描き込まれていくが、長い年月を経たのちに、ある日隣接する建物が取り壊され、そこにかつて封じ込まれた壁画が出現することがある。
 直射日光の影響をほとんど受けなかったその壁画は、おどろくほど鮮やかな色彩を残していて、さながら古墳の石室の壁画を発見したような感動をおぼえる。

最近の給油所の塗装は、商標意匠やロゴの部分は特殊な印刷がされた粘着シートを貼ったものが主流であり、短時間の作業で低コストを実現している。しかしその仕上がりは正確で均質だが味わいに乏しい。

いっぽうで古い給油所の壁画は、塗装職人が石油ブランドの仕様書にあわせて手塗りで塗装したものが多く、色ムラや微妙なバランスの狂いにも独特の表情を見いだすことができる。

さらに古い防火壁はブロック積みであったり、長年塗装を重ねるうちに下地が傷んで剥脱したために、重ね塗られた塗料層の下から思わぬ紋様が顔をだすこともある。
 またなにかの理由で上塗り塗装を免れた壁が、給油所のバックヤードにひっそりと残っているのを発見するのも、ガソリンスタンド巡りの楽しみのひとつだ。

それでは、すばらしい防火壁画のかずかずをお楽しみください。

 

旧日本石油・廃止店舗・山梨県

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