アルバム2010年8月20日「天領地の油商」を追加
これは戦前からガソリンを扱ってきた古い商家が、昭和30年頃に建物の角部分を取り壊して給油所の形態に改築したものだ。これまで日本の各地を回り、結構な数の給油所を見てきたが、この壁面のもつ表情のユニークさにかなう建物を他に思い出すことができない。遠い昔に賑わった古い町並の入り口にあたる四つ角を切取り、じりじりと夏の日差しを受けながらわずかな日陰を作っているこの防火壁のような土塀のような壁面に取り付けられたEssoの四文字は、欧文の立体文字看板というよりはむしろ欄間彫刻を連想してしまう。
改築する前は店舗の屋内床下に戦前の500ガロンの地下タンクが入っていたという。
この店舗デザインは、先代のご当主の考案だというが、城郭の銃眼のような小窓の配列、庇に付けられた溝彫りや偶角の曲面などに、当時の給油所のもつハイカラなイメージと古い商家建築をマッチさせようとした意図が読み取れる。
半世紀以上の歴史の中で、何度もこの壁は塗り替えられてきたはずだが、さすがにEssoといえども、その指定塗装を押し付けることはできなかったことだろう。