国道ランドマーク

アルバム2010年7月31日「国道ランドマーク」を追加

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変わった形のキャノピーや風変わりなセールスルーム建築の給油所なら、ほかにいくつも知っている。給油所巡りをしていて、「この先のバイパス沿いに、すごく珍しい給油所がある。」と教えられてわざわざ足を運んだものの、奇を衒っただけの安っぽい造形にがっかりしたような経験は何度もある。
だが、この給油所は違う。この給油所の魅力は、退屈な国道の風景の中でも記憶にしっかりと残るランドマークとなるようなユニークな形状をしていながら、その造形は単に人目を引こうとしたものではなく、むしろ慎重に企画され設計されたことを伺い知ることができるところにある。

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交差点に面して二面接道のレイアウトを取っているが、給油所の敷地が広く、隣接する建造物との距離があるので、防火壁は遠く片側にしかない。防火壁に描かれた鮮やかなブランド意匠という屏風絵を後ろに背負うことができないので、ありきたりなセールスルームの建築では風景に埋もれてしまう。さいわいこの一帯は工場や作業所が多く、中高層の建物がないので、空が大きく開けている。空をキャンバスと見立てて、くっきりと映える形状を求めた結果、この造形ができたのだろう。

この巨大な天蓋はキャノピーとも屋根とも区別することができないくらい、自然にセールスルームと融和している。形状だけでなく、天蓋が受けた雨水を逃がす仕掛けや、普通なら屋上に設置されるはずの空調室外機の始末など、機能的な面でも設計に工夫がされていることがわかる。

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最初は三菱石油の給油所としてスタートしたことは、ノンスペース計量器の基部にあしらわれた三菱の切り抜き意匠の存在が誇らしげに語っている。日石三菱のパステル調のカラーリングの時代も、この給油所はブロンズのサッシとパネルだけで構成されていたために、似合わない衣装を押し付けられることを免れていたに違いない。いま30余年の歳月を経て、ブロンズ葺きの屋根は見事な碧みを見せている。
訪問を終えてもう一度振り返ると、四方に突き出した屋根の先からすっと伸びた白い二本のパイプはまるでマンモスの牙のようにも見えた。