アルバム2010年4月30日「王国の入口」を追加
はじめて訪れた人が驚くのは、セールスルームの犬走りに沿って並べられたたくさんのブロックだ。この給油所は隣接する建築資材店が経営するもので、ブロックはさまざまな種類のものが1個ずつ置いてあることからもわかるように、建築資材店が扱う商品の見本として陳列されている。もともと耐火性は十分だし、邪魔になる場所でもなく、むしろセールスルームを防護しているようなものだから、これならば給油所の監督にうるさい消防署も文句のつけようがないだろう。
給油所を開業するときに、隣の店舗からも中を通じて行き来できるように壁側に寄せ、限られたスペースの中で車両の進入する動線をさまたげないように配慮して、このような円弧を描く美しい形の設計になったそうだ。カーブをあわせた屋上の手すりの存在もあって、船の哨楼のようにも見え、水兵の帽子のようにも見えて、どことなく海洋的なイメージの連想もある。
茨城県は県域が東西南北どの方向にも広がっていて、6号、50号、51号という幹線国道だけでなく、小さな町村をむすぶ県道が網の目のようにはりめぐらされている。したがって「面」を支えなければならない理由で給油所の数が非常に多い。県の西部や北部の山間地域ですら、他県ならばそのまま行き止まりになるような谷筋も、隣接する栃木や福島に抜ける間道が生活道路となっているので、そのルート沿いにはかつて給油所が存在した跡を数多く見つけることができるし、いまでも小さな給油所がたくさん残っている。しかも昭和30年から40年代に建てられたものがほとんどで、そのために画一化されない個性的な建築が多い。給油所を巡って鑑賞する立場としては茨城はまさに桃源郷と言える。これまで撮影した給油所の数も茨城は他県よりも格段に多い。
東京から給油所巡りに繰り出すと、日帰りで戻ってこられる折り返し点がだいたい水戸あたりになる。水戸よりも先をじっくりと回ろうとするうと、どうしても水戸で一泊せざるを得ない。もちろん水戸より東京に近いエリアにも、何度でも繰り返し訪れている魅力的な給油所はたくさんあるのだが、水戸以遠の地域はちょっと覚悟して出かける別格の存在となっている。那珂川を越えた先というのは自分にとって異境であり、心ときめかす夢の王国でもあるのだ。