下町ワンダーボーイ

アルバム10年1月4日「下町ワンダーボーイ」を追加

mt1mt2

この給油所にはとにかく参った。写真うつりが良すぎるのだ。

どんな給油所でも、魅力的に見える角度とそうでもない角度がある。ガソリンスタンド・ノートに写真を紹介するときは、当然いちばんいい写真を選ぶ。ところがこの給油所はどの角度から撮影したものも魅力たっぷりに見える。どうしてもこれという1枚を選ぶことができないのだ。

それは二階部分がゆるやかなカーブを描く扇形をしていることに理由がある。約60度の角度を持つ二面接道というレイアウトがシャープな印象を与えていることにもある。昨年塗装をしなおしたばかりで、建物や防火壁の色つやがちょうどいい状態に保たれていることにもある。もちろん店主さんのこの店舗への愛着やいたわりがすみずみまで行き届いていることにもある。しかしこの給油所には持って生まれた無邪気な明るさのようなものがあって、それがどんな角度からも感じられてしまうのだ。

もうひとつ悩まされたのは、この給油所が面している交差点の交通量の多さだ。もちろん行き交う車の数が多いだけなら、ここよりもにぎやかな交差点は都内にいくらでもある。
いつも道路越しに給油所を撮影するときは、両方の耳をすましてファインダーを覗く。目はアイピースに付けたまま、左右それぞれの耳で接近してくる車の走行音に注意してタイミングをはかり、 ちょうどどちらも途切れる瞬間を予測してシャッターを押す。かなり交通量の多い場所でも、しばらくタイミングを計っていれば必ずチャンスはある。
ところがこの給油所が建っている街角は自動車の走行音に耳を澄ませているだけでは失敗する。音もなく通り過ぎる自転車や、次々と道路を横切っていく歩行者が多く、いまだ!とシャッターボタンを押しても、相当な頻度でファインダー視野の中にいきなり飛び込んでくるのだ。

店主さんから「夜もとてもきれいですよ。」と教えてもらったので、三度目は日が暮れてから出かけていった。ちょうど一日の営業を終えて閉店準備中だったが、道路の反対側に三脚をたてて慎重にアングルを決めた。三脚を使えばファインダーをずっと見ている必要はないので、車や自転車や歩行者が6つの道のどっちから接近してきて前を横切ろうとしても気が付きやすい。

ところがこんどは夜道で三脚をたてている人間に不思議そうに歩み寄ってくる人がいる。自転車で通りかかってわざわざカメラの前で止まり、けげんそうに凝視していく人がいる。無理もない。だが通行人の視線が気になってシャッターを切ることができない。

まだまだ修業が足りないと痛感した。