東京都と埼玉県が複雑な境界を接する北多摩の郊外、川沿いの窪地に二つの街道が交わる四つ辻。とある夕暮れにそこで信号待ちをしていて、角に建つ古いビルの一階にある理容室に思わず目が止まった。そこに見たものはまさに英国風のBARBERだった。
黒々とした看板に「寿」の一文字がひそませてあることすら、帰宅して写真を確認するまでは気がつかなかったほどだ。
政治家の立て看板がなければ、これはロンドン郊外の街角で日常的に遭遇する風景と言ってもまったく差し支えない。この前の道路は県道36号保谷志木線(県道片山線)ではなく、A24 Clapham High St.とかA236 Mitcham Rd.と呼ぶにふさわしいものだ。
この場所にたまたまこのような古いビルがあって、その一階にテナントとして入居するときに、建物の雰囲気にぴったりとマッチする店舗デザインを選んだのか、それとも最初から英国風のBARBERを開業したくて、幾多のテナント物件を探し回った挙句にこの建物にめぐりあったのか、その真相は聞いてみなければわからない。
信号が青になるまでのわずか1分ほどの間に目に焼き付いたこの光景は、それから都心に向かう渋滞の中でもずっと脳裏から消えることがなかった。