世界的に有名な観光都市の中心を少し外れた静かな町並み。普通の人々が平穏に暮らすこの通りに足を踏み入れる観光客はいない。

美容室の看板がなければ、喫茶店やレストランと言われても疑うことはないだろう。
目をこらさなければ、4つの装飾テントがはめ込まれていることをうっかり見過ごしてしまいそうなほど、吹きつけ塗装の色とテントの色を自然に合わせてある。垂直方向に3本配したリブをU字にカットすることで、その前を通り過ぎる人の視線をさりげなくかわしながら、採光性を十分に確保することも実現している。実際になんどもその前を行き来してみると、角度によってファサードの表情が連続的に変化する。細粒の玉砂利で表面を仕上げたベース部分にリブが接続する内偶角のアールの付け方もなかなか心憎い。

なにげない市井の建物に込められた無名の工務店の仕事ぶりを愛でるたのしみは尽きない。