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商店街が住宅地にとけこんでいくあたりにある理髪店。屋号にあわせて白雪を冠した富士山がレリーフになった看板が目に飛び込んできた。
かつては角タイル貼りであっただろうと想像される部分はレンガタイルで新しく改修され、窓も換装されているが、そのみごとな看板だけは長年ずっとこの店の顔としてお客さんを迎えてきた。

店主さんご夫婦にうかがうと、理髪店として営業中だったこの店を、昭和の初めに先々代が引き継いだときにはすでにこの形だったそうだから、建物自体は確実に80年以上は経っているようだ。店の中にある大鏡をいちど取り外したところ、鏡の裏から昭和7年の日付の新聞紙が出てきたという。このあたりは戦前はそれほど建て込んだ場所ではなく、高台に位置していることもあって、ほとんど空襲の被害を受けていない。
「昔はこのへんからも富士山がよく見えたんですよ。」
それが屋号の由来である。

夢中で撮影してから帰宅して、あらためて写真を眺めていると、なんと屋根の上にももうひとつ富士山が見えることに気づいた。職人がこっそり仕掛けた二重の富嶽である。

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