日本全国に団地を愛する人々が相当数いることはわかっている。団地マニアの数は鉄道マニアにはとうてい及ばないけれども、ガソリンスタンド・マニアより多いことは確かだ。というよりガソリンスタンド・マニアを標榜している人を自分以外に知らないんだけど。

この団地マニアの皆さんとはいろいろなところで親しくさせてもらっているが、実際のところ団地とガソリンスタンドにはあまり接点はない。団地の敷地の片隅にガソリンスタンドがある例なら、探せばいくらでもあるだろう。だがこの二つは趣味の地平というか方向性が交わることは、これまでなかったのだ。

過日、和歌山の海岸線沿いに給油所を訪ねてまわった。国道42号線からわざと外れると、旧い街並みの中やひなびた駅の近くに、魅力的な給油所がいくつも点在していて、なかなか先に進めない楽しい旅だった。旧道を辿り、断崖から見下ろす明るい海を楽しんで峠を越え、一面のミカン山の斜面を下りはじめたとき、眼下の風景の中にたいへんなものを見つけて思わずブレーキをかけた。

mz0

これは…。団地とおぼしき古い建物の側壁に、旧丸善石油の燕のマークが大きく、あざやかに描かれているではないか。

mz1

坂道を駆け降りて小さな橋を渡り、その建物の傍まで飛んで行った。建物はかなり老朽化しているが、まだしっかり現役のようだ。ここからほど近いところに、旧丸善石油の製油所が昔から存在している。その従業員用の社宅として建設され、使われてきたものだろう。

mz2

よく見ると、マークは壁面にただ赤く塗装してあるのではなく、レリーフとなっているようだ。丸善石油が大協石油と合併してコスモ石油となって以来すでに四半世紀が経過したにもかかわらず、褪色の早い赤系の塗料がよい状態で残っているのは、燕のマークに誇りをもつ人々が塗り替えてきたのだろうか。
土手の上からしばらくこの壁を眺めて過ごした。これ以上ここにいると、今日の目的地まで辿り着けそうにない。時計にせかされるようにようやくその場所を後にした。