牛乳ブランドには牛乳書体ともいうべき独特の書体があった。

たとえば「乳」の字ひとつにも、森永牛乳と明治牛乳では書き方が違う。これは以前にも紹介した明治牛乳の販売店の例。明治牛乳の乳は「一ツ子」で表されている。

過日、よく晴れた日にたまたま森永牛乳の販売店の前を通りかかった。森永牛乳の乳の書き方は「ノ小子」だ。

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写真を撮らせてもらうためにお店のご主人に声をかけると、「ああ、うちのエンゼルマークはよく写真に撮って行く人が多いんですよ。もう珍しいからね」と言われたが、申し訳ないが僕が強く惹かれたのはエンゼルマークではない。軒下に積み上げられた青い牛乳箱に隠れそうになっている販売店名の立体文字だ。

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木製の立派な切り文字だが、注目したいのは屋号の漢字まで統一された書体になっていることだ。一枚目の明治乳業の販売店の写真にもあるが、地名に用いられる漢字も明治牛乳の書体と統一がとれたものになっている。これは牛乳ブランドに限ったことではなく、同じ時期(昭和30-40年代)の給油所にも多くの例を認めることができる。

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フォントもカッティングシートもない時代、仕様書に清刷された制定書体を見様見まねで現場の塗装職人が考えたのだろう。あるいは最初は統一感があったものが、長年塗装をやりなおすたびに、上からなぞってはだんだんと形が曖昧になってきたものも多い。しかしこの時代の職人が、その意味も知らずに懸命にコーポレート・アイデンティティーに従おうとしていた姿を思いうかべると、いつも胸が熱くなる。