文字が印字してある紙切れに愛着を持つことおびただしく、そういうものを捨てられないたちで、旅行中に受け取ったレシートやらメモやらはすべて残してある。それこそドーナツ屋でコーヒー一杯を買ったレシートから、一泊34ドルという宿屋の領収書まで。そのときその町には宿屋はそこしかなく、一番高い部屋が34ドルだった。部屋はぜんぶで二つしかなく、安いほうの部屋は28ドルだった。

そういう紙切れをときどき整理しようと試みるのだが、手にとるたびに旅の記憶がよみがえってきて、結局一枚も捨てることができない。
とくに外国のセールススリップはその美しさにほれぼれと見とれることがある。

sh1

このShellの未使用のスリップをどこでもらったのか憶えていないのだが、その余白の美しさにしばらく手が止まってしまった。ふと見ると、裏側に何か書いてある。

sh2

152・152
どうみても日本人が書いた数字ではない。数字の5と2は日本ではこういう書き方をしない。
そして察するに、これは道順をしめした地図である。それも田舎でおそらくは乾燥した渺々たる平地。

表側をもう一度見ると1993年2月に印刷された用紙であることを示すような記号がある。その時期以降にどこかを旅行中にガソリンスタンドで道を訊ねたときに、店主が事務所のそのへんにあった紙片の裏に書いて説明してくれたもののようだ。オイルとホコリでぎちぎちと鳴るような武骨な手で書いてくれた地図。おそらくShellのカバーオールの左腕のペンポケットに差してあった、白軸のpapermate製の1ダース98セントの青いインクのボールペンで。

“Thank you!”というと、”You bet.”とウィンクして返してくれたかもしれない。
それだけのことなんだが、なんだか気持ちがこみあげてきて、胸がいっぱいになる。